それは仕事中だろうが授業中だろうがお構いなしに襲ってきて、命の危険すら感じてしまう。私たちの生活において、「突然の下痢」ほど困るものはありません。下痢の原因としてはストレスや緊張、腸の不調、ノロウィルスなどが考えられます。しかし、それらが思い当たらないとしたら、意外な食べ物が関係しているかもしれません。小麦粉です。
下痢をともなう腹痛の原因?小腸が分解吸収しにくい糖がある!
たくさん食べ過ぎたとき、腸で消化しきれずお腹をくだしやすくなる、というのはイメージしやすいと思います。ところが、特に食べ過ぎている訳ではない、むしろ体に良いものを食べているのに慢性的に下痢に悩まされる人がいます。こういう人は、ある栄養素にもともと弱い体質である可能性があります。
それが、乳糖やフルクタンという栄養素です。乳糖は牛乳に含まれている糖質で、この乳糖を分解する酵素が少ない人は、牛乳を飲むとお腹をくだしやすくなります。
フルクタンとは、3つ以上の糖が結合した糖質のことでアスパラガスやチョコレート、玉ネギ、そして小麦粉に多く含まれています。フルクタンも人によっては小腸で分解しづらいため、消化吸収されずにそのまま大腸に届いてしまうと、下痢を引き起こすことがあるのです。

過敏性腸症候群とFODMAP(フォドマップ)
胃や腸に異常が見られないのに下痢や便秘など、慢性的に腹痛を感じる状態を、過敏性腸症候群(IBS)といいます。症状としては、月に数回ほど耐えきれないほどの腹痛に突然見舞われ、排便したあとは何事もなかったかのように正常な状態に戻ります。
突然の腹痛は、過敏性腸症候群かも? 控えたほうが良いFODMAP(フォドマップ)食とは?
ストレスやウィルス以外の他に、過敏性腸症候群の原因だと考えられるのが、糖による下痢です。おなかが弱い人の中には、小腸で糖の一部を吸収分解できず、そのまま大腸まで糖類がやってくることがあります。本来、糖は大腸で処理する成分ではありません。このため大腸は混乱して、水を出してしまい、これが下痢の原因となるのです。
オーストラリアのピーター・ギブソン医師は、大腸のはたらきを狂わせてしまう糖類を含んだ食品のリストを作りました。それが、FODMAP(フォドマップ)です。具体的には、
フォドマップとは、「発酵性の(Fermentable)の糖類」のことで、Fは4つの糖類にかかっています。Oは、小麦粉や大豆などのオリゴ糖グループ。Dは単糖が2つくっついた二糖類で、牛乳やヨーグルトなど。Mは単糖類で、果物やはちみつなどが入ります。そして(And)、Pは多糖類の一部で、キシリトールなどの人工甘味料やきのこ類に含まれています。
過敏性腸症候群の人がひかえるべきFODMAP(フォドマップ)食 | ||
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オリゴ糖(フルクタン) | Oligosaccharides | きな粉、ごぼう、小麦、玉ネギ、納豆、アスパラガスなど |
二糖類(乳糖) | Disaccharides | 牛乳、ヨーグルトなど |
単糖類(果糖) | Monosaccharides | りんご、梨、びわ、はちみつなど |
ポリオール(ソルビトール、キシリトールなど) | Pokyols | マッシュルーム、キシリトールなどの人工甘味料 |
ちなみに、「発酵性」という言葉は、腸内細菌がエサとして利用しやすいかどうか、を示します。表をみて驚かれる方も多いかもしれません。これらの食品は、一般的には体に良いとされている食品ばかりです。
FODMAP(フォドマップ)食が下痢を起こすメカニズム
実際、フォドマップ食を摂取すると大腸で吸収されずに残り、腸内細菌のエサになります。
⇨ 腸内細菌はエサを食べた後、「短鎖脂肪酸」という有機酸を生みだします。糖を分解して酸を生みだすプロセスを「発酵」と呼びます。
⇨ このとき、腸内細菌はフォドマップ食品を発酵するため、大量のガスを作り出します。
⇨ ガスがたまると、「お腹が張って苦しい」「お腹がゴロゴロする」状態になります。
⇨ 発酵されずに残ったフォドマップ食は、腸の粘膜にはたらきかけ、水分を出してしまいます。
⇨ 便中の水分割合が増加して、下痢を引き起こします。
下痢をともなう腹痛の大きな要因?加工食品の小麦粉

FODMAP食品の中でも、過敏性腸症候群の人がもっとも気をつけたい食品が、小麦粉です。たとえば、きな粉やびわ、マッシュルームを毎日のようにバクバク食べる人はほぼいないでしょう。しかし、小麦粉は違います。小麦粉をおもな原材料とした食べ物は、あまりにもたくさんあるのです。
- 食パン
- パスタ
- 焼きそば
- うどん
- ラーメン
- お好み焼き
- たこ焼き
- クッキー
- ケーキ
お好み焼きやたこ焼きは、小麦粉製品だとイメージしやすいと思います。でも、加工食品の場合はどうでしょう? ラーメンやうどんなどの麺類、パン、全粒粉、ちくわぶに天かす、白ビールまで。ホットケーキやカロリーメイトだって、小麦粉の加工食品です。
わたし自身、原因不明の腹痛に悩まされていましたが、小麦粉が原因かもしれないとはまったく思い至りませんでした。しかし、テニスプレイヤーのジョコビッチ選手の本を読んで、ハッとさせられました。小麦粉には腸の消化に良くないフルクタンばかりか、小腸の粘膜を傷つけてしまうグルテンも含んでいることを知ったのです。
免疫系をつかさどる腸のはたらきが良くないと、肌荒れを起こしやすくなります。現にわたしは、突発的な腹痛だけでなく、大人ニキビにも悩まされていたのです。
ジョコビッチの生まれ変わる食事 あなたの人生を激変させる14日間プログラム (扶桑社BOOKS)そこで、それまで好んで食べていたパスタ、焼きそば、たこ焼き、菓子パンなどの小麦粉製品を極力食べないようにしてみました。すると、1か月に3~4回は悩まされていた突然の腹痛に襲われることがなくなったのです。

そして、小麦粉を徹底的に食べない“グルテンフリー生活”を続けてから、2年後。試しにインスタントの焼きそばを食べたら、気も狂わんばかりの腹痛に襲われました。やはり、わたしの体は糖の分解が苦手だったようです。
まとめ
すべての人にとって、小麦粉製品が悪い、とは断言できません。NHKの生活情報番組『ためしてガッテン』で紹介されていたように、糖の吸収分解がうまくできるかどうかは、体質によるからです。

それでも、急な下痢や腹痛に襲われるけれど原因がはっきりしないという人は。試しに小麦粉製品を抜いてみると良いかもしれません。小麦アレルギーの症状は、すぐに症状が出る即時型と1~3日後に症状が出る遅発型があり、後者の場合は気づきにくいからです。